溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「そうだった。一緒にディナーに行く前にどうしてもこれを渡したくて。正装に着替えてちゃんと」
そう言うと、ジェイドさんは片膝を付き、私を見上げた。
「左手を」
言われるがまま、おずおずと差し出した左手の薬指を彼が優しく持ち上げた。
沈んで行く陽が、船の帆に掛りキャンドルの様に灯る。
静まり返ったプールサイドでお互い、視線と指先だけを絡めて。
彼が私の指先につけてくれたのは、翡翠色の宝石が輝く指輪だった。
婚約、指輪?
「これから、――船に居る間だけでも宜しくお願いします」
手の甲に、慣れた様子で口づけを落とす彼は、本当に御伽話の中から飛び出した王子様だった。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
こんな、素敵な出来事を上手に思い出に変えきる自信なんて私には全くないけれど。
けれど、助けてくれた彼に私が出来ることは、微笑んで受け入れてしまうことだけ。
彼がくれる、ぽとりと手のひらに落ちてくる優しさを笑顔で受け入れるだけでいいんだ。