怪盗ダイアモンド








その日の放課後。


「お願い、音遠くん!明日、私の友達の前で私の彼氏のフリをして欲しいの!」

兄さんの容態を診るために、またうちに来ていた音遠くんに私は両手を合わせた。

なんだかどこかで見た映画のセリフに似てる気がするけど、気にしない!

リビングのソファに座って体温計を咥えた兄さんと、その後ろでハンドメイドアクセを作ってる母さんの視線が痛い。

けど、親友達の前で嘘をバラしたくないんだもん!!

「良いよ」

「え?!良いの?!本当?!」

意外とあっさり承諾を得られた。

本当の彼氏じゃないのに彼氏役やらされるって、結構嫌なものだと思ったんだけどな。

でも良かったー!!これで阿弓達に嘘を突き通せられる!!

思わずガッツポーズをとった。

「そこの美術館、僕も行ってみたかったからね。それに、蝶羽ちゃんともっと仲良くなりたかったから、こんな形とはいえ嬉しいよ♪」

あー、もー!

なんでこんなカッコいいことサラッと言えちゃうかなぁ、この人は!!

「ついでに、予告状も僕が作って置いてくるよ。これでも素早い作業は得意なんだ」

こ、これがスパダリというものか……

「はぁ、馬鹿ね。全くこの娘は誰に似たのか」

「あぁ、馬鹿だ。でも馬鹿な娘ほど可愛い」

母さんと兄さんの言葉の矢がグサグサと刺さる。

「阿弓ちゃんと亜希乃ちゃんと何年仲良くしてるのよ、中学の頃からだからもう六年でしょ?今更そんな事で怒ったりしないでしょうに」

そ、そうだけど……それは分かってるけど、ガッカリさせたくないし……

「まぁ母さん、そんなカリカリするなよ。後で謝れば良いし、嘘から出たまことになるかもしれないだろ」

兄さんの優しい言葉に、母さんが目を光らせる。

「なるほど。一理あるわね」

「ちょっとー!話勝手に進めないでよー!」

ポコポコと母さんの肩を叩いて抗議する私。

「ははっ、良いね、みんな仲良しな家族で」

音遠くんはこのコントのようなやり取りが面白いらしく、優しく微笑んでいた。けど……



―――その眼が懐かしそうな穏やかなそれだったのは、気のせいかな。


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