怪盗ダイアモンド
「凄く綺麗じゃない?」
音遠くんはうっとりと目を細めた。
「え?」
綺麗?
……私はそうは思えない。
なんだか怖い。
女の子の宝石みたいな深く青い目に吸い込まれそうで。
自分の後ろからも薔薇が襲いかかろうと迫ってるような気分になって。
ぞわりと全身の毛が逆立つ。
思わず、音遠くんの手を引っ張った。
―――この絵から早く離れたい。
「?蝶羽ちゃん?」
「……亜希乃達と離れちゃうから、行こ?」
「あ、うん、そうだね」
亜希乃達はもう随分先に行ってしまった。
このままだとはぐれるし。早く、早く逃げ―――
「そちらの絵画にご興味がおありでしょうか?」
ぅびゃんっ?!
うわ、変な声出た!!何?!
「あぁ、失礼致しました。驚かせてしまいましたね、申し訳ございません」
一気に怖いの吹っ飛んじゃったよ……誰?
びっくりしながら振り向くと、知らない男の人。
撫でつけた銀髪に青紫の瞳、キッチリと皺一つ無くスーツを着こなし、ネクタイの代わりに綺麗な石が埋め込まれたループタイを付けた、綺麗な人だった。
……あれ?初めて会ったはずなのに、どこかで見たことあるような……?
なんだろ、このデジャヴ。
「もしかして、ここの館長さんですか?」
音遠くんが聞いた。
「おや、申し遅れました。私、この美術館の館長をしています。瀬川 蒼二(せがわ そうじ)と申します」
瀬川……あ、そっか!
「蒼二!ここにいたのか。一回りしてから皆で挨拶に行こうとしてたんだよ」
「紅一兄さん!兄さんの連れの方だったのか。実習先の生徒さんかい?」
戻って来た瀬川さんが、館長さんと並んだ。
そっくりな顔が二つ。
「えっと、瀬川さん?」
「「はい?」」
瀬川さんと一緒に付いてきた亜希乃が首を傾げる。
状況がまだ理解出来てないみたい。