純情喫茶―恋する喫茶店―
「お客様、ここはナンパの場ではございませんよ」

後ろから笙の声が聞こえた。

振り返ると、救急箱を抱えている笙がいた。

顔は微笑んでいるが、眼鏡越しの瞳は笑っていなかった。

今の笙の様子を例えるとするならば、“恐ろしい”の一言しか浮かばない。

端正なその顔立ちが、笙の恐ろしさをより一層引き立たせていた。

彼の登場に、玲奈は手を引っ込めた。

「ちょっと話してただけだけど」

悪びれた様子を見せず、谷木が言った。

「マダムの手を握ることがですか?」

(どっから見てた!?)

玲奈は笙を見つめる。
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