純情喫茶―恋する喫茶店―
「喫茶店『柚葉』開店です」

入浴時と就寝時以外はいつも身につけている腕時計を見ながら、玲奈が言った。

しかし、その声にはいつもの元気がない。

玲奈はカウンターに入ると、カレンダーに視線を向けた。

(もう1週間か…)

そう思った瞬間、ため息が出てきた。

谷木が店にこなくなってから、今日で1週間目になる。

――何があっても近づいちゃダメだよ

笙の声が、頭の中でリピートされた。

――俺たちには約束があるんだから

“約束”――それが果たせるまで、異性との交際や結婚は禁止していた。

店を開店する前に、2人で話しあって決めたことである。

谷木に対しての思いを振り払うように、玲奈はカレンダーの前から離れた。
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