タイガーハート
下校の時間。
帰り支度をして、伏見の方を見ると
ビビットピンクのスポーティなボストンバッグに教科書を詰めている最中だ。
鞄を肩にかけ、伏見の席に歩み寄り
前に立つ。
「伏見、帰るぞ」
まだ教室に残っている皆の目線が集中する。
『へ!?あ、うん!!』
間抜けな声を出してあたふたと焦る伏見。
『え?あの二人、そういう感じ?』
コソコソと話す声が聞こえる。
ふ、と視線を横に泳がせると、伏見の斜め前の席の野並さんと目が合う。
『え、なに、2人付き合ってるの?』
俺をじっと見つめたまま、野並さんが口を開く。
『ごめん!言い逃した!
実は、昨日から付き合ってるんだ…』
様子をうかがうように伏見が答える。
野並さんは目線を床に落としてから、笑った。
『そうなんだ。おめでとう。』
これは笑っていない。
何よりコミュニケーションが苦手だからこそわかる。
反射的に伏見の腕を掴む。
伏見にそんな嘘の笑顔を向けるな。
野並さんを威嚇するように見つめる。
「伏見、行くぞ」
手を引きながら教室を出る。
また明日ね!と伏見が振り返って叫ぶ。
伏見の腕を掴んだまま、廊下を歩く。
『ちょっと小虎!早い…っ!』
そうか。
はっとする。体型が違えば、歩幅が違う。
「ご、めん」
立ち止まり振り返る。
『ほーん。さては恥ずかしかったの?
小虎ちゃん!』
伏見が冗談めかして言う。
落ち着くように息を吐くと、
伏見の頬を片手で挟むように掴む。
「お前のこの口は…!!!」
『やめへー!』
間抜けな声が廊下に響いた。