いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。


でもお医者さんは、そんな私に追い討ちをかけるように言った。


「最終的には、今までの全ての記憶が消えていくかと……」


横で、お母さんが肩を震わせ、すすり泣いている。


私は溢れてくる涙を懸命に拭いながら、もう分かりきっていることをお医者さんに聞いた。


「大好きな人の顔も……忘れちゃいますか……っ?」


私のその問いに、お医者さんは一回まぶたを伏せる。


そして言った。


「恐らく、忘れてしまうでしょう」


と、深い息を吐いて。


胸の中に絶望が広がるのと同時に、私の脳裏に大好きなあの人の笑顔が浮かぶ。


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