月下美人が堕ちた朝
20060726am01:04
病院の正面玄関は閉まっていて、あたしは院内の地図を頼りに緊急外来の出入り口にまで辿り着いた。
おぼつかない足取りで、後ろを気にしながらとにかく前へ進んだ。
あの看護師は、あたしを追い掛けてこなかった。
面倒くさいことに巻き込まれたくなかったのだろう。
あたしは出入り口のドアを開き、目の前に停まっていたタクシーのドアをノックした。
週刊誌を熟読していた運転手は驚いてあたしに振り返り、急いでドアを開けた。
バッグを運転席の後ろに投げ、それに続いてあたしは崩れるように乗った。
車独特の臭いが気持ち悪い。
やけに低姿勢になって、あたしに行き場所を聞いてきた。
「どちらまで?」
帽子から見え隠れする白髪が何だか痛々しい。
こんな歳になっても、年下のあたしにペコペコしなきゃいけないんだ。
もしかしたら、スバルは幸せだったのかもしれない。