甘やかな螺旋のゆりかご


「――で、触られただけ? どこを? どれくらいよ」


まだビールを頼んではいなくて良かった。もしジョッキを手にしていたとしたら、僕は隣の会話に狼狽え、ビールはあらかた膝の上に溢していただろうから。


……女の子同士の会話も、男と同じように、わりと際どいことまで言い合ってしまうのだとドキリとした。


僕のよく知る隣の彼女は、頻繁ではないが、時折蕁麻疹に悩まされていて。処方してもらった薬を常時携帯している。


その原因は…………、一度知ってしまってからはお互い口にはせず、けれども、知ってしまっては余計に心配することになってしまうもので……。


隣の彼女の声は相変わらずよく聞こえ、そして僕の耳を放さない。彼女の友達との会話は、僕が知るより随分と直接的だと、今度は驚きながら。やっぱり、危険なことがあったんじゃないかと拳を握りしめながら。


「……あいつ……っ、わたしがトイレから出てきたら壁際に追い込んで、手を握るは肩は抱くわ腰とかその下も撫で回すわ最低。喜んでると思ってんの、わたしが。お前がこっちを身動きとれないようにしてるってのに。……気付いて助けてくれてありがと。あのままあそこでやられるかと思った」


「……ああ。荒れてるクラブとかよく行ってて実際そうらしいよ。それ聞いてすっ飛んで来たんだ。ホントにごめん」


「助かったって言ってるでしょ。ほらお疲れお疲れ」


ささやかな、お互いのグラスを合わせる音が響いた。彼女の男前な会話に聞き惚れる。


「――それにしても、厄介ね、それ」


「ああ。蕁麻疹?」


「うん。性的に触られなくともなっちゃう?」


「うーん。そこは怪しい。わたしもよく分からない。性的はとりあえず全部。手を握ると握手とかの境目って、判断つかない」


「だね~。――そりゃあ、こんな美人の綺麗な肌、触りたくはなるけどね。あたしも触りた~い」


「馬鹿言わないの」


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