甘やかな螺旋のゆりかご


指先の、電流を纏っている感覚が消えない。床に寝転びながら呼吸が整うのを待つ間も、それが変わることはなかった。この感覚はわりと日常茶飯事のことで、妹にも言ってはいないが、これは、眠れない夜の前兆で……。


前兆はこんな、何かあったような日や、普通の一日を過ごしていてもやってくる。昼夜問わず訪れる。もう、原因を探ることは諦めた。


そうして、言ってはいないというのに、何故かそんな夜、妹は僕を救いにやってくるんだ。


「……、」


今日も来るのだろうか。助けに、来てくれるのだろうか。


自分の変調を覚えたのはこの部屋に帰ってからだ。けれども……


僕は、それを期待している。なんだというのだ、この絶対的な感情の正体は。




依存……だ。僕はおそらく、とても妹思いの変態シスコン兄貴で、妹離れがきっと一生できない体質で。あんな綺麗で僕に優しい妹なのだから仕方がない。昔から、妹に付きまとう男には小学生の頃から睨みをきかせていたじゃないか。僕の視線では到底敵わなかったが。秘密を共有する唯一の存在を手放したくないなんて、仕方のない感情だ。それをどの程度抑えられるかが問題だが。過去のことを持ち出すのは心底嫌だが、あれがあったから今を心配になるのは一理あるだろう。


どうか幸せに。妹に降り注ぐのは福音だけでいい。世界中誰よりも彼女に祝福を。






……だから、この推測は間違いだ。脳裏に浮かぶことさえ甚だしい。


妹を想って熱を孕む僕の身体も心も、これはあってはならない。




苦しい、苦しい。指先の痺れが治まると浅い呼吸が始まる。これで眠れないのは確定だ。最悪極まりない。もう深夜で、今日は忙しさに加えて飲み会でへとへとだ。何時間後には休日返上で出社すぐに会議がある。


「……」


浅い呼吸が苦しくなるのも構わずに立てた舌打ちは、音にはならず消えていった。




作業が終ったのか、響かせないように配慮した妹たちの足音が階段を上ってくる。それぞれの部屋に消えた気配から暫くして、僕の期待したそれはやはり、こちらの部屋へと近付いてきた。


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