あと少しの恋
「どうして···」
「言ったろ守れなかったって
警察が来る前に美弥は殺された
犯人にしたら人質なんて時間稼ぎにしかなかったんだろうな」
「あんまりです」
「由貴だろその花束
一つ言っとく由貴はあんたに美弥をかさねてる」
「えっ···」
「つーか忘れろ
じゃねぇと送ってかねーからな」
またぽんぽんと頭を撫でられる
「希瀬さん」
「なんだよ」
「じゃあなんでここにきたんですか
忘れるためなら連れてこなくたってよかったじゃないですか

「由貴がおまえをここに案内されるより俺が案内したかったんだ」
「好きだから忘れたくないから共用したいから違いますか」
風がいっしゅん強く吹く
私の背中かが木に当たる
木に手をついたまま希瀬さんが言う
「わかったこと言うなよ」
希瀬さんの目をまっすぐみつめかえす
「出過ぎたことだと思ってますでも謝りませんから」
「勝手にしろ
由貴のとこ行くんだろ送る」
会話という会話もないまま車に乗り込むと希瀬さんはタバコに火をつけてエンジンをかけた
「なんだよ黙り込んで」
「···」
「謝らないんだろ
言ったろ好きにならなくていいって」
希瀬さんは言いながら少し乱暴にアクセルを踏んだ
「···」
「つーかなんか話せ
葬式じゃあるまいし」
わかってるけど言葉が出てこない
それを察したのか希瀬さんが淡々と話す
「おまえなんか好きな食いもんあるか?」
「今は食べたくないです」
今度は乱暴にブレーキをかけて車を路肩に停めた
そしてシートベルトを外すとこちら側に身を乗り出してきた
「おまえさなんなんだよその態度」
じゅっと音をたてタバコが灰皿に押し当てられた
私は狭い車内で希瀬さんのせいで窓の方に追いやられていた
「きゃっ···」
痛い怖い、必死に抵抗するけど力では希瀬さんが上だ
「おまえ俺といるとそんな悲しそうな顔するよな」
だんとフロントガラスを固定されてるはずの腕で叩いた
「希瀬さん」
「なんだよ
つーか会社まで送る」
希瀬さんはそれだけ言うとあとはなにも言わず私を送ってくれた
会社に着くと由貴さんがドアを開けてくれた
「車は駐車場にいれといてくれ」
「あぁ」
「希瀬おまえ、その腕」
見れば包帯ははずれかかり腕が腫れあがっていた
「別に、なあ鈴おまえ謝らないんだよな」
謝りたいけど言葉にできず由貴さんの陰に隠れた
「なにがあったかは詮索しないが車使え」
「病院いきたくない」
「ガキじゃあるまいし」
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