あと少しの恋
俺は由貴をちらりと見る
まるで子供がイタズラを叱られたように
「希瀬、やっぱり好きになれそうもない」
「妙に気が合うなバカ兄貴」
看護師が慌てる中、鈴がとびこんできた
ずかずかと歩いて来るなり頬を叩く
「希瀬さんも由貴さんもやめてください
私なら大丈夫です」
「なあ鈴」
希瀬さんは頬をさすりながら私に近づいてきて私を見下げるなり叩く
「鈴」
「バカ女」
希瀬さん?
いっしゅんなにがおきたかわからなかった
痛いのは頬じゃなく心
希瀬さんは点滴スタンドと共に横をすれ違っていく
「希瀬さん」
「重いんだよおまえ」
由貴さんが希瀬さんにつかみかかろうとしていて慌ててとめる
「もういいですから」
「よくないだろ、自分に嘘ついて
諦めんなよ貫き通すために俺を踏み台にしたんだろ」
「由貴さん」
「俺は今の鈴は嫌いだ」
私は希瀬さんの後を追う
届かない背中
後少し手を伸ばせば届くのに
いつだって欲しい物はあと少しのところで消えていく
消えないで
お願い、傍にいて
考え事をしていてなにかに思いっきり躓いた
「おまえなにやってんだよ」
顔をあげれば希瀬さんで
私はすっぽりと希瀬さんの胸に抱かれていた
温かな心音、このまま時が停まればいいのに
「もう希瀬さんの嫌がることしませんから傍にいたいです」
ポンポンと頭を撫でられて目をあわせる
「さっきは悪かったな
本当にいいんだな?」
もし本当に鈴がそのつもりなら俺も心を決めなくちゃならない
でも怖いんだ
また裏切られるのが
この傷と背負うことにした運命
おまえは本当に愛してくれる?
「希瀬さん大丈夫ですから私なら」
「弱虫は俺みたいだな」
低く笑って希瀬さんが言う
今度はちゃんとあと少しが届いた
今度は2人で歩いていける
もう怖くなんてない
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