蕾の妖精たち
「分かったわ。孝之はこの白紙の便箋に、自分の遺書を書けって仰るのね? そうなの? そうしたら、私も貴方の側に行けるのかしら……」

 舞子は便箋相手に、そんな妄想をしていた。


 富永は待ち時間の余りの長さに、何回も舞子の部屋の呼び鈴を鳴らした。

 様子がおかしいと感じた富永は、岡部を管理人室まで走らせ、自分は頑丈なドアを激しく叩く。

 続いて隣の部屋の住人を呼び出し、ベランダを伝って、富永は舞子の部屋へ入った。

 ほぼ同時に、管理人に鍵を開けて貰った岡部も、部屋の中に入った。


 二人は合流し、舞子の姿を探す。


「榊さんっ!」


 舞子は奥の部屋にいるようだった。

 ドアノブを握るが、しかし、開かない。


 富永と岡部は、一度だけ顔を見合わせると、岡部の足で、一回、二回、……そして三回目に、開かずの扉を蹴り破った。

 扉が部屋の内側に外れ、二人の刑事が、雪崩込む。


 そこには、便箋を前にうつ向く、舞子の姿があった。

 
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