嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。


分かっていた。
分かっていたのに、この場に踏みとどまる私がいる。

月を見上げて咲き揺れる桔梗。私はこの位置で良い。
この距離がいい。
この位置から動きたくないの。

「私がはっきりすれば、月は元の位置に戻ってくれるかな」

今にも落っこちてきそうな月に、その距離で留まってとお願いすれば。

桔梗が咲き乱れる中、息を吸うのも面倒になった私の上に落ちてくるのを止めてくれるかな。

「どうして、私なんだろう」
「まあまあまあ! ソレ、私も気になるわ。ちょっと聞いてきなさいよ」
ちょっと哀愁を漂よわせて言っていたのに、この義母は。
雰囲気ぶち壊しだ。

「ようし、私が聞いてきてあげるわ。ちょっと待ってなさいね」
「ぎゃー! 無理だから。本当に無理だから」

本当に行きかねない、いや、既に縁側を降りようとしている義母を両手でしっかり掴みながら、夜は更けていく。

早く、早く、朝になりますように。
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