嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
「美麗ちゃん! 調理場から塩! ありったけの塩を持ってきて!」
「え、あ、砂糖しか場所分からない」
「いいから!」
慌てて調理場へ駆けこむ美麗ちゃんを振り向かず、私の目が一心に睨むのはオカマ野郎。
まさか堂々と来るとは思わなかった。
ジーンズにTシャツというラフな姿に、眩しい頭、そしてサングラス。
いけすかない出で立ちに、思わずダイナミックな舌打ちをしてしまうほどだ。
「びっくりしたわぁ。桔梗ちゃんが此処で働いてるなんて。確か、総合商社の受付嬢に就職決まってやわよね」
「何年前の話? とっくに止めたわよ」
なんでこいつが私の就職先を知っているんだろう。
確かに大学を出て働いていたけど、晴哉の時に無断で一か月休んで、休職して死にかけていたから退職しちゃった。
――晴が生まれたから、それで良かったけど。
社会復帰として此処で働き出させてくれたのは、幹太だし。
「ねえ、デートしてよ。仕事いつ終わるの?」
「すいませんが、今日のご用は何でしょうか? 和菓子をお求めでは無いのなら、忙しいのでお帰りお願い致しますが」