嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
人の仕事中に来るなんてふざけ過ぎている。
ちらりと後ろを振り返ると、幹太の姿は無かった。
きっとこいつと入れ替わりで裏から咲哉くんと出荷の準備に行ったのだろう。
おじさんも休憩中だし、――誰か追い出してくれないかな。
「もちろん、仕事よ。春月堂さんに私の祝言用の和菓子と、あとは茶会の和菓子をこちらでお願いしようかなって」
「じゃあ、おじさんか幹太をお呼びいたします」
平さんの御寺は大きいし、檀家さんも多いし、腰を痛めている住職さんも顔が広い。
春月堂としては断る理由がない、いい話だけど。
断りたい。全力で断りたい。
「桔梗ちゃんって、そうやってずっと未亡人で通すつもり? これから30年は故人をJ偲んで生きていくって寂いしいわよ。子供もいるなら、前を向いて歩かなきゃ」
「そうですね。子供もいますし、間違えてもオカマみたいな奴を好きにはなりませんよね。後、晴哉の一周忌を大事にしてくれないチャラい坊主とか」
「悪かったわよ。今日はそれの謝罪も込めて来たのよ」
だったら、一番に入った瞬間に謝罪しろよ。
そう悪態を吐きたいけれど、こいつと会話したくない気持ちの方が勝ってしまった。