嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。

「お前だって――」

そう言いかけて、止めた。
そのまま振り返らず、歩いて行く。
思わせぶりな言葉ばかり言うくせに、意味なんて伝わってこない。
私が一番不幸のどん底で、泣いて悲劇のヒロインを気取ってた時に、現実に引き戻してくれたくせに。


王子様にも魔法使いにもならず、悪役みたいに分からない呪文を投げかけてこないで。
その無駄に広い背中が、私は大嫌いだ。
今も昔も、きっと未来も。

噛みつきたくなる。

こっちを向いて、ちゃんと話して欲しくて、噛みつきたくなる。

「ちょっと、言いかけないでちゃんと言いなさいよ! 置いて行くのも腹立つんですけど!」

その背中を追い掛けなきゃいけないのも、――苛々する。

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