嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
にこにこ笑っているから、本当に大丈夫なのだと思う。
顔に出ちゃう子だから、用事があればきっともっと暗い顔をするはずだ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」
「はい。お疲れ様です」
挨拶もそこそこに、ロッカーへと向かう。
今日はおじさんじゃなくて幹太が残るはずだから、二人っきりは断固拒否だ。
ストレスで胃に穴が開いてしまう。
「お先に」
そう暖簾も上げずに、素っ気なく調理場へ言い放つと外へ出た。
今日は、お父さんも居ないけど、きっとお義母さんが私の分も用意してくれていると思う。
お義母さんの料理は、煮物が本当に美味しいから楽しみだ。
「や、――また幹太が厭味ったらしい顔で見下してきそうだから、今度からはコンビニでもいいからなんか買おう」
ブツブツそう言いながら裏口から出ると、店の数メートル前で
立ち止まっている着物姿の女の子がいた。
薄紅色の生地に、手鞠柄の女の子らしい着物。
帯や、簪を手鏡で整えているその子は、幹太しか眼中にないと噂の、美麗ちゃんの妹さんだった。
「いらっしゃいませ。美鈴ちゃん」