嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。

(げっ)

全く気を抜いていて気付かなかった。
すぐに正面を向いて謝ろうと頭を下げた時、ふと違和感を感じて頭を下げるのと止めた。

「ん?」
「このどら焼き5セット、熨斗お願いしようかしら」
「また現れたな。オカマ」
サングラスに深く帽子を被っていたために一瞬どこから声が降っているのか分からなかったけど、この喋り方とこの無駄に大きな身長の男はオカマしかいない。

「オカマって酷い。平(たいら)くんって呼んで。下の名前は女の子みたいだから、上の名前がいいな」
「どら焼き五つですね、巴(ともえ)ちゃん」
昨日、保育士さんが呼んでいた名前で呼ぶと、光を浴びたドラキュラのように大げさに首をブンブン振って嫌がったので、これから巴ちゃんと呼ぶことにしよう。

オカマのくせに、女の子らしい名前が嫌って変なの。

「貴方に会いに本店に行ったのに、今日はこっちって聞いてバイク飛ばして来たのよ。愛を感じない?」
「感じません。仕事中ですので私語は謹しませていただきますね。本当にどら焼きでいいのね?」
「今日、貴方がこっちに来たのって幹太と何かあったってことよね?」

注文を聞いているのに、巴ちゃんは私の今一番痛い傷口を抉りやがった。

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