英雄の天意~枝葉末節の理~
「──っ!」

 どんな事があっても声を上げるなと言われているニサファは、食いしばるようにその様子を眺めた。

 ひと声でも上げればガネカルは目標を変えて襲ってくる。

 そんな事にでもなれば彼を不利にさせるだけだ。かけたい声を殺してニサファは心で叫ぶ。

 彼が何かをしようとしている事はおぼろげながらも感じてはいるものの一体、何をしようとしているのかまでは解らなかった。

 いなしながら剣の刃を獣の体に滑らせているようだがしかし、硬い毛は切れ落ちる事もなく平然としている。

 隙があれば剣を振るうも、やはり傷を負わせるには至らない。

 獣は一向に疲れを見せない獲物に苛つき、次にじっくりと狙いを定め体勢を低くする。

 これで決めようというのだろう、ニサファにもそれが解ってごくりと生唾を呑み込んだ。

 意を決してガネカルはより素早く突進し覆い被さるように前足を振り上げたとき、ナシェリオは瞬時に剣を左に持ち替えた。
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