英雄の天意~枝葉末節の理~
 剣は、あれだけ攻撃をよせつけなかったはずの体を易々と貫き、獣の悲痛な叫びと共に前足を地面に縫いつけた。

 ガネカルは痛みと怒りで歯をむき出し、その口に右手を突き入れる。

 ずらりと並んだ牙が腕に食い込み、その痛みに耐えながら何かを口走った瞬刻、獣が勢いよく青い炎を吹き出して燃え上がった。

 ナシェリオは強力な炎の魔法を唱え続け、最後のひと言を解き放ち魔法を発動させたのだ。

 攻撃しつつ、相手の攻撃をかわしながらも魔法の詠唱を継続させたナシェリオにニサファはやはり英雄の影を見てしまう。

 獣は苦しみ悶えてしばらくのあと事切れた。

 ナシェリオは獣が死んだ事を確認し深く溜息を吐いて剣を仕舞った。

「ナシェリオ様」

 おずおずと馬を寄せるニサファに倒した事を報告するように首をかしげ、そのまま馬に乗っているようにと示す。

 気がつけば、額の傷はすでに塞がっているのか血は止まっていた。

 右腕はその牙で出来た幾筋もの深い傷から未だ血は流れておりとても痛々しく、老人の眉間に大きなしわを刻んだ。




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