英雄の天意~枝葉末節の理~

†††

 それは、孤独に平原を彷徨っていたときのことだ。

 生涯の友を喪った哀しみから、ナシェリオはあてどもなく歩いていた。

 どこをどう歩いていたのかは覚えていない。

 おそらく、ドラゴンが棲んでいた洞窟からほど近い場所だろう。

 背の高い草に隠れるように、かつては建物だった形跡がそこかしこに垣間見えた。

 それは捨て去られた大地、忘却の彼方に埋もれた名も無き都市──ナシェリオは呆然とそれらを視界に捉え、立ちつくしていた。

 大陸の西方は辺境の地とされ大きな都市は無い。

 ナシェリオのいた村のように、小さな集落が広い範囲に点在しているだけだ。

 昔読んだ叙事詩には、西の大地にはエルフの国があったと書かれていた。

 大きくはなかったが、地中に流れる魔力(マナ)のおかげで作物は豊かに実り、エルフたちは幸福であったとも記されている。
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