続 音の生まれる場所(下)
(疲れた…)

ベッドの上で大きく息つく。てんやわんやの1日。やっと終わった…。

トントン…。

ノックの音に飛び起きる。

(まさか…坂本さん…⁉︎ )


ドキドキしながらドアを開ける。隙間から顔を出したのは……


「……お母さん…」
「ふふっ。期待した⁉︎ 」
「…っもう!シュミ悪いよ!」

怒りながら中に入れる。母とは女同士。こんなふうに部屋で話し込んだりもする。

「…今夜、真由からメール来て、すぐにお父さんに教えてあげたの。驚かせちゃいけないと思ったから。そしたら全然落ち着かなくなって、家の中ウロウロするもんだから目障りで…外で迎えてあげたら?って言ったらその通りにしちゃって…」
「こっちは冷や汗もんだったよ…お父さん、腕組みして仁王立ちだもん…」

困ったように言う。母には父の行動が手に取るように分かるみたいで、思いきり苦笑してた。

「お父さん…すごく喜んでたでしょ⁉︎ 坂本さんに会えて」
「うん…何なのって思うくらい。あれどうしたの⁉︎ お母さん何か言ったの⁉︎ 」
「何も。ただ、演奏会の時、お父さんどうしても坂本さんにお礼言いたかったのに会えなくて…とても残念がってたから…」
「地元のファンや記者たちに取り囲まれてたからね…」

三年ぶりの演奏。しかも自分で作った楽器だもん。当然だよ。

「あの演奏会からの帰り、お父さん珍しく朔ちゃんのこと話してたわ。『彼が生きてたら、今夜みたいな演奏が聴けたかもしれないのにな…』って…」

中学から始めたフルート。高校の入学祝いにと買ってくれたのは父だった…。

「自分が買ってあげたフルートが、長いこと使われずに押入れにしまわれてたの、お父さんスゴく残念がってたから。『買わなきゃ良かった…』って、悲しそうに言ってたこともあったのよ…」

ベッドに背中を付けて話す母の言葉は、これまで聞いたこともない話。

(あの厳しいお父さんがそんな事を…?)

不思議な気分。一体どこにそんな優しさが隠れてるんだろう…。

「真由が高校へ通えなくなった時…お父さん、随分辛くあたってたわよね…『そんなに泣くくらいなら、二度と人を好きになるな!』とか言って…」
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