続 音の生まれる場所(下)
「うん…ヒドい父親だなって思った…。スゴくツラくて悲しかったのに…」

父の言葉にも打ちのめされて、ますます部屋から出にくくなってた時、ドアの外から母の声がした…。


『真由…お父さんが一緒にご飯食べようって…。今日は誰の誕生日か忘れたのか…って』


「…朔の誕生日だったよね…その日…」

9月30日。朔が生きてたら17歳になる筈だった…。

「真由が朔ちゃんと付き合ってたことお父さん反対してたのに…そんなのちゃんと覚えてて、感心させられた。お母さんは真由と一緒に、泣くことしかできなかったのに…」

不器用だけど心から人に優しくできる父…。
一緒に泣いて笑うだけが優しさじゃない…と教えてくれた…。

「真由が…もしも次に誰か男性を家に連れて来たら…今度は絶対に反対しないって…お父さん、朔ちゃんの葬儀の日に言ってたの…」


『ちゃんと認めてやれば良かった…。こんなに早く逝ってしまうのなら…』

私の代わりに葬儀に参列してくれた。父は私の分も…と、二度焼香をしたんだと友人達が教えてくれた…。


「今夜、坂本さんを家に泊めようと言ったのも、きっと朔ちゃんへの罪滅ぼしみたいな気持ちがあったのかもしれないわね…」
「坂本さんのこと…認めた訳じゃないの⁉︎ 」
「どうかしら…気に入ってるとは思うけど…」
「…もしも…私が彼と一緒になりたいって言ったら…なんて言うと思う?」

まだ先の話だけど…と付け加えて聞く。母はそうね…と首を傾げ、嬉しそうにこう囁いた。

「きっと…好きになさい…とか言うんじゃない⁉︎ 真由に幸せになってもらいたいから…」

少しだけ話すと満足したらしく部屋を出て行く。その際、余計な一言を残していった。

「坂本さん客間で寝てるわよ。寝込み襲ってあげたら?」

笑いながらドアを閉める。客間は私の部屋の下。彼が今、どんな気持ちでいるだろう…とつい思ってしまった。

(眠れてるかな…)


明日は土曜日…。
久しぶりに楽団の練習に行って、思いきりフルートが吹ける…。
花粉症になって吹けなかった日々…。
悲しくててツラかった、あの高二の秋を思い出すこともあった…。

(二重奏…したいな…)

写真と一緒に眠る。
心地いい春風に吹かれながら、久しぶりに深い眠りに落ちたーーー。
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