続 音の生まれる場所(下)
ゴールデンウイークの最終日、朔のお墓参りをした。
いつもは家に行って遺影に手を合わせるけど、今日は何だか、朔が眠る場所で話をしたかった…。


「…お墓にカーネーションっていうのもヘンだけど…いいよね?」

目の前にいるような気持ちで話しかけた。花と言えば、朔はバラとチューリップくらいしか知らなかった。

「中学と高校合わせても、4年半の付き合いしかなかったのに…私は今でも朔のこと、いろいろとよく覚えてるよ…」

負けず嫌いな性格で、ぶっきらぼうだけど優しくて、冗談みたいにいつも私をからかっては後で後悔してた…。

「朔との距離は…今でもすぐに埋まるのに、どうしてなんだろ…坂本さんとは簡単に埋まらないの…。私の思いばかりが空回って、彼には伝わらないの…私はただ…あの人の側にいたいだけなのに……」

楽器作りを手伝いたいと願ったのも、全てはそれの為。
彼との距離がこれ以上開かない為に、誰にも邪魔されたくない為に、そんな事を願った。
だけど……

「迷惑なんだって…楽器作り手伝うの…」

何も知らないから、きっと最初は足手まといになる。それは十分、分かってる。でも、離れていたくないーーー。

「…どうしたらいいのかな…」

思いきって言った言葉を拒否されてしまったら、何の為に彼を待ってたのか分からなくなる。
楽器作りを手伝えないのなら、私は一体、何をしたらいい……?

「…気持ちばかり先に立って、何も考えつかないの…まるっきり子供でしょ……」

一方的な会話。相手が朔だと、素直に話せるから不思議だ。


「朔…どうして死んじゃったの…?」

生きててくれたら…と思う。そしたらきっと、今とは違う現実があったはず。


『ごめん…』

朔の声が聞こえた気がした。顔を上げ、墓標を見つめる。目頭に浮かぶ涙の奥で、朔の笑顔が思い浮かんだ。

『真由……オレはいつも…どこにいるんだっけ?』

問いかける声が優しく胸に響いた。

『どこで生きてるんだっけ?それを教えてくれたのは誰だった?』

質問に思いを巡らす。
朔が生きてるのは…ブラスの音の中…。それを教えてくれたのは……

「坂本さん…」

『だよな。だからお前の恩人なんだろ?あの人の音に出会わなかったら、お前は今もお先真っ暗な淵の底にいたと思うぜ』
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