らぶ・すいっち





 その間、ずっと私は何も言葉を発することができないでいる。
 順平先生も何も言わず、ただまっすぐを見て安全運転を心がけている様子だ。

 私の視線は先生の手元。だけど、節ばった手は色気を感じてドキドキする。
 その色気に当てられてしまい、俯くこともできない。


(どうしたんだろう、私。うまく息ができない)


 まだ順平先生の唇の柔らかさを覚えている。私にキスをする順平先生は、いつものクールさは見えず、意外に情熱的な人だってこともわかってしまった。

 混乱している。だけど、その中には確かに嬉しさも混じっていて……。
 だけど、あのとき素直に自分の気持ちを伝えることができなかった。

 これだけ挙動不審で、なにより順平先生のキスを拒むことなく受け入れたのだ。
 きっと順平先生は気がついているはずだ、私の本当の気持ちを。

 
(でも、やっぱり言わなきゃダメだよね……)


 順平先生に私は「好きだって言われていない」と抗議してしまっている。
 それなのに私は好きだと伝えず、なにより本心とは逆の気持ちを口走ってしまった。

 ニュアンスだけでわかってね、というのは虫が良すぎるだろう。
 だけど、今さら改まって告白するのは……やっぱり勇気がいる。

 順平先生の気持ちは私にあるということは、さきほどのキスと「好きだ」という言葉で充分にわかった。
 あとは私が本心を口にすれば、丸く収まることだろう。

 それなのに言えない私は、臆病者か。それとも極度の恥ずかしがり屋か。

 しかし、ずっと引っかかっていることがある。お見合いのことだ。
 私のことが好きだと言った順平先生だが、どうして見合いをすることにしたのだろう。

 その辺りの説明はそういえばまだしてもらっていない。
 聞きたい。でも、聞くのは怖い。ああ、もう。どうしたらいいのかわからなくなっている。

 間違いない。私はパニックを起こしている。



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