らぶ・すいっち
「どうしましたか? 気分でも悪いですか」
「いえ、大丈夫です」
順平先生が気遣ってくれているというのに、そんな淡泊な言葉しかでてこない。
結局、次に車が停車するまで、私は一言もしゃべることが出来ないし、順平先生の顔を見つめることもできずにいた。
車が止まった先、それは一軒の民家だった。
「こう見えて、知る人ぞ知る名店なのですよ」
順平先生は普通の民家のインターフォンを押した。
飲食店ではなく、順平先生の知り合いの家ではないか。そう思ってしまうほど、ごくごくありふれた民家なのだ。
そんなふうに思ったのだが、インターフォンから聞こえた言葉を聞いて目を見開いた。
『はい、初雪亭です』
「予約していた美馬です」
『お待ちしておりました。どうぞお入りください』
そのやりとりを聞いて、この民家でお店をしているのが本当だとわかった。
呆気にとられていた私を見て、順平先生は「ね、お店でしょう」と得意げに笑う。
その至近距離での笑顔に、私は再び固まってしまった。
私の慌てぶりを見て順平先生は忍び笑いをし、私を店の中へとエスコートしてくれる。
店の扉を開けると、その中は民家というより、やっぱりお店と言うのがシックリくる内装をしていた。
なんでもここの店は店主ただ一人でこなしているらしく、あまり大勢のお客さんに来店してもらってもさばけないからというのが理由のひとつらしい。
「美馬くん、久しぶりだね。それも今日は可愛らしいお連れさんまで」
店主に視線を向けられ、私は慌てて頭を下げた。
すると隣から手が伸びてきて、私の腰を順平先生は抱いたのだ。びっくりして顔を上げると、そこには清々しいほど爽やかな笑顔の先生がいた。