らぶ・すいっち





 何を言い出したんだ、この人は。

 ギョッとして順平先生を見上げたのだが、私を見下ろす目は本気だ。
 冗談でしょと笑い飛ばしたいところだが、順平先生の目は冗談じゃないと私に訴えかけている。

 私たちの様子を見ていた店主は、肩を震わせながら冷たいお茶を出してくれた。


「プッ。本当、今日の美馬君は面白いねぇ。それだけ彼女ちゃんに本気だということかな?」
「そういうことです」
「なら、アルコールの力なんて借りずに正々堂々とぶつかっていくことだな」
「そうしてきたつもりなんですが、これがなかなか攻略するのが難しくて」


 肩を竦め店主に笑いかける順平先生だが、隣にいる私はどう反応すればよいのだろうか。
 真っ赤になって小さく縮こまる私に、順平先生はドキッとするほどキレイな笑みを浮かべた。


「変化球ではなかなか気がついてもらえなかったので、ストレートに気持ちを伝える戦法に切り替えたばかりなんですけどね。須藤さんは、なかなか手強い」
「っ」


 絶句する私の手に、順平先生は大きくて温かな手を重ねてきた。


「そろそろ私に靡いてくれてもいいと思うのですけどね?」
「!!」


 ああ、どうしてくれよう。この男。

 顔が熱くなりすぎて居たたまれない。この場から逃げてしまいたいぐらいだ。

 私が今、ここで出来るのはひとつだけ。とにかく黙って、時が過ぎるのをジッと待つ。
 これだけだろう。
 私の様子を見た店主は、プッと噴き出して私に同情してくれた。


「彼女ちゃん、すでに美馬君の恐ろしさ体験済みか」


 どうやらそのようです。
 身体を小さくさせながら順平先生の手で包まれてしまった自分の手を、気恥ずかしくなりながら見つめ続けた。






< 141 / 236 >

この作品をシェア

pagetop