らぶ・すいっち
「あ、スミマセン。少しだけ席を外させてください」
順平先生と店主さんに断りを入れた後、私は通路に出てスマホのディスプレイを見る。
「え……?」
そこには意外というか、もう連絡はないだろうと高をくくっていた相手からだった。
出ようか、それとも出るのをやめようか。
迷った挙げ句に電話に出たのは、この着信を無視したとしてもこの人物は、あらゆる手を使って私に接触してくるだろうと予想がついたからだ。それなら今、出てしまったほうが得策だろう。
私は小さく息を吐き出したあと、電話に出る。
「もしもし、合田くん。どうしたの?」
「ああ、京香。久しぶり」
「……ってほどでもないけどね。どうしたの?」
もう私とは積極的に接触しようとはしないだろうと考えていたのに、まさか電話をしてくるだなんて。
どんな意図があるのかと心配していると、合田くんは敏感にそれを察知したようだ。
「ははは、そんなに警戒するなよ」
「だ、だって……」
「確かにこの前お前に振られはしたけどさ。今は元彼、元カノの関係だろう? ついでにいえば高校の同級生。もっとついでにいえば、親たちが友人同士」
「……まぁ、そうだけど」
合田くんの言うことはもっともだが、なんだか腑に落ちない。
私が言葉を濁していると、彼は笑いながらいつものように強引に話を進めてきた。
「お前にお願いがあって電話したんだ。この前、料理教室の取材をしただろう? その記事を今度うちのフリーペーパーに掲載するってことは知っているよな」
「うん」
それはもちろん知っている。あの取材がきっかけで、元彼である合田くんと久しぶりの再会をすることになったのだから。
ついでに順平先生とキスをしたということも一緒に思い出してしまい、私はスマホを握りしめながら熱くなってしまった顔を手で煽ぐ。