らぶ・すいっち





「それで生徒さんから一言っていうスペースを作りたいんだ。体験談みたいものを入れたいんだけどさ」


 合田くんからの電話ということで、なんだか嫌な予感はしていた。
 嫌な予感、的中なのかもしれない。

 恐る恐る電話の主に聞いてみる。


「もしかして、それを私が?」
「そう。いいだろ?」
「私じゃなくたっていいんじゃない?」


 私が生徒代表でコメントを載せるだなんてとんでもない。

 私なんてあの土曜教室、順平先生クラスでは下っ端も下っ端。
 料理もろくにできず、おば樣たちに迷惑をかけまくっている私に、そんな大それた事できるはずがない。

 すかさず断りを入れようと、合田くんに違う案を提示しようとした。
 だが、合田くんの返事を聞く前に、私の背後から威圧感たっぷりの低い声が聞こえた。


「なにが私じゃなくたっていいんじゃない、なんですか?」
「え?」


 慌てて振り返ると、そこには順平先生が壁によりかかり私を見つめていた。

 その視線の鋭さに、私はドクンと大きく胸が高鳴る。
 それと同時に、背筋に走る悪寒と冷や汗。
 獰猛な獣に睨まれた獲物。そんな図が今、この場所で描かれている。

 固まっている私に順平先生は近づいてきて、あっという間にスマホを取り上げられてしまった。


「ちょ、ちょっと! 順平先生」
「この電話はフリーペーパーの編集者からですか?」


 どうやら立ち聞きをしていたらしい。それはマナー違反ですよ、と注意をすれば、「あまりに遅かったので様子を見に来ただけですよ」と笑顔で返される。だが、その笑顔がものすごく怖い。

 威圧的な態度を取る順平先生に上から見下ろされてしまったら、素直に質問に応じるしか方法はない。
 私はビクビクしながら、順平先生に手を差し出しスマホを返してくれるよう懇願した。

 だが、敵もさるとながら易々と返してくれるわけもなく。
 私は仕方がないと小さく息を吐き出してから、事情を話すことにした。



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