らぶ・すいっち
「えっと、この前のフリーペーパーの件で」
「それなら直接教室のほうに伺いをたてるのが筋というものでしょう」
「えっと、そう……かな?」
順平先生の言うとおりではある。
しかし合田くんとしては、他の土曜メンバーのおば樣に頼むより私に頼んだ方が手っ取り早かったに違いない。
とりあえず私に伺いを立てておいて、そのあと美馬クッキングスクールに打診するはずだったのでは、と私が言うと順平先生はそのキレイな顔を不機嫌に歪めた。
順平先生が持っている私のスマホからは「どうしたんだ? おい、京香?」と合田くんの叫んでいる声が聞こえる。
まずは電話先の合田くんに後でかけ直す旨を伝えたい。
そのためには順平先生にスマホを返してもらわなければ。
スマホを返してくださいとお願いしたのだが、順平先生は私の話には耳も貸さず、ついには電話に出てしまった。
「電話中失礼。先日取材されたフリーペーパーの特集の件ですよね。私が聞きましょう」
怖い。笑顔で対応しているが、どう見ても怒りが滲み出ている。
それはきっと電話先の合田くんも感じていることだろう。
アワアワと慌てることしか出来ず、順平先生の傍で息を呑む私。
会話の途中で順平先生からスマホを取り返す勇気は……ない。
ギュッと手を握りしめ、とにかく穏便に事が終わることだけを祈る。
順平先生は基本「ええ」とか「はい」と言ったように、相づちをうつだけ。
これでは会話の端々から、内容を把握することは困難だ。
耳を澄まして順平先生の声と、時折スマホから洩れてくる合田くんの声をキャッチしようとしたのだが、内容は分からずじまいだ。