らぶ・すいっち



 
「さぁ、京ちゃん。こちらですよ」
「あら、順平。須藤さんのこと、京ちゃんって呼んでいるの? 教室の皆さんは、京香ちゃんって呼んでいるのに」
「だから、ですよ。特別な感じがしていいじゃないですか?」
「うふふ、そうね。それに貴方の天敵と同じ名前だから、少し違う呼び方がいいと思ったのではなくて?」


 さすがは年の功。お祖母さんは何もかもお見通しらしい。
 そんな私たちのやりとりを聞いていた京は、噴き出したようにクスッと笑ったのだが、玄関に上がった瞬間、今度は真っ赤になって固まった。


「どうしましたか? 京ちゃん」
「い、いえ……なんでも……なんでもないです」


 とても何でもないといった感じではないが、まだ緊張が続いているのだと思った私は彼女の背中をさりげなく押した。


「お祖母さん特製の料理の数々ですよ。楽しみにしていてください」
「は、はいっ!」


 ぎこちなく返事をする京を見て何も思わないわけじゃないが、お祖母さんに会うのが恥ずかしいといって緊張していたのだ。きっとその緊張がまだほぐれてはいないのだろう。
 私はお祖母さんに見つからないように、そっと彼女の頭を撫でた。

 突然の私の行動にビックリしたように顔を上げた京だったが、次の瞬間安心したように目尻を下げた。その仕草が愛らしくて思わず自室に連れ込みたくなったのだが、部屋に入ったはずのお祖母さんがひょっこり廊下に顔だけ出してきた。


「順平、今日は私がいますからね」
「……」
「自重してくれるわよね?」
「わかりました」


 口ではそう答えた私だが、内心はわかってはいない。それはお祖母さんもわかっているのだろう、大きく息を吐き出した。


「ダメよ、順平。ほら、須藤さんが固まってしまっているわ」
「えっと、あの……その」


 真っ赤になって目を泳がせる京を見て、私は両手を挙げた。


「わかっていますよ、お祖母さん」
「よろしい。さあ、須藤さん。ご飯にいたしましょう」
「は、はい!」


 弾かれるように返事をする京を見て、お祖母さんも楽しげにほほ笑んだ。
 そのままお祖母さんは京をダイニングキッチンへと手招きし、椅子に座らせる。

 しかし、京は慌てて腰を上げた。



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