らぶ・すいっち
「さぁ、まずは食べましょう。天ぷらは揚げたてが一番ですもの。遠慮なさらずいっぱい食べてね。須藤さんが食べてくれないと、いっぱい残ってしまいそうだもの」
「あ、ありがとうございます!」
京自身、戸惑い気味だとは思うが、目の前の料理には素直に喜んでいる。
彼女は料理オンチではあるが、料理自体は嫌いではない人だ。
もちろん食べることへの興味も深い。お祖母さんが作った鮮やかな料理の数々に目を奪われるのはすぐだった。
お祖母さんにお箸と取り皿を渡された京は、嬉々として料理の数々を頬張っている。
すごく美味しい、と連呼続ける京を見て、お祖母さんもとても嬉しそうだ。
もちろん、彼女が美味しそうに食べる姿を見るのは私も好きだ。細身の身体なのに、どこにそんなに入るのだろうと不思議なほど気持ちよく食べてくれる。
料理人として、自分が作ったご飯を美味しそうにたくさん食べてくれる。これに勝るものはないように思う。
どんな賞賛の言葉より美味しそうに食べる表情にやられる。そういった感じかもしれない。
お祖母さんに作り方を聞きながら料理の数々を頬張る京に、「そういえば……」とお祖母さんが何かを思い出したように手を叩いた。
「ねぇ、須藤さん。ちょっと聞いても良いかしら?」
「はい、なんでしょう?」
「これなんだけど……」
お祖母さんが割烹着のポケットから取り出したのは口紅だった。
それは私が今年のお祖母さんの誕生日にプレゼントとして渡したものであり、京が選んでくれた口紅だ。
「これって須藤さんが選んでくれたのかしら?」
「あ、はい。順平先生が店にいらっしゃって……英子先生に似合う色の口紅を選んで欲しいと」
「うふふ、やっぱりそうなのね。順平はこの口紅をプレゼントしてくれたとき、須藤さんに選んでもらったって言わなかったのよ」
「そうなんですか?」
京は首を傾げたあと、私に視線を向ける。「そうなんですか?」と今度は私に問いかけてきた。
「ええ、言わなかった……というより、言いたくなかったですかね」
「え? どういうことですか?」
訳が分かりません、と首を捻る京の耳元で小さく囁いた。