らぶ・すいっち
「どうしましたか?」
「いえ。順平先生でも、イヤミではなく普通に笑うんだなぁって思って」
「なんですか、それは」
「えっと……だって」
私がこの半年間に見た順平先生は、私の料理下手を弄り、イヤミの応酬をしていた意地悪な顔ぐらいだ。
(あ、英子先生の誕生日プレゼントを選んだときは違ったかな?)
あのときの順平先生の笑顔は、破壊力があった。
頑なに“順平先生は天敵”と呪文のように唱えていた私の心が打ち抜かれてしまったのだから。
しかし、あの出来事がきっかけであらぬ誤解 ——— 順平先生目当てで受講を希望していると思われていた ——— が解けたのなら、それはそれで喜ばしいことだ。
こうして居残りをし、マンツーマンでしてくれるというのも、純粋に私が料理を習いたくて教室に来ていると順平先生に理解してもらえたと考えていいだろう。
そうとなれば、俄然張り切るしかない。
私はゆっくりと包丁を手にした。