らぶ・すいっち
(ちょ、ちょっと! おば様たちってば。なんなんですか)
色々教えてもらいなさい、という言葉の“色々”というのが意味深に聞こえたのは私だけでしょうか。
合田くんといい、土曜メンバーのおば様たちといい、何かを勘違いしている。
私と順平先生の間には、美しい師弟関係だけだというのに。
周りの目は節穴なんだろうか。
シンと静まりかえる教室。順平先生と二人きりの空間。
それにはだいぶ慣れたはずなのに、今日はなんだか居たたまれない。
今、この空間にはいつもと何かが違う空気がたちこめているように思える。
それを払拭させたくて、私は笑顔で順平先生を振り返った。
「順平先生! 今日は失敗しませんでしたよ?」
「……」
「厚焼き卵だって練習の成果が発揮されていたでしょ? 今日は居残りしなくたっていいのではないでしょうか?」
まくし立てるようにしゃべる私を、順平先生は教壇の辺りで無言のまま見つめている。
何も言わない順平先生に、私はどうしようかと戸惑った。
なんで何も言わないで私のことを見ているのだろう。
何か言って、お願い。そう何度も心の中で呟くのだけど、言葉にならない。
なんだかドキドキしてきてしまった。鼓動が煩いぐらいだ。
手持ちぶさたな私は、この緊張を紛らわせるために指を組んだ。