それは、一度終わった恋[完]
……そんな風に懐かしいデート風景を思い出していたら、突然ふと、昔の会話も蘇ってきた。
私はいつも通りソファーに座って漫画を読んでいて、あなたは私の膝に頭を乗せて漫画を読んでいた。
それから、ぼそっとひとりごとのように、夢を語ったんだ。
いつか澄美の漫画の編集をしてみたい、と。
……私は、その夢が今ひっそりと叶っていることを実感して、ちょっと泣いた。
数えきれないほど苦しいことがあったけど、それでも突き進んだ〝漫画家〟という道が、あなたと結び付けてくれたことに、私は静かに感動していた。
黙って目を潤ませている私を見て、稔海さんが心配そうに問いかける。
「なに、どうした」
「いや、漫画地道に描いててよかったなあって、しみじみしちゃって……」
鼻を啜りながらそう答えると、
あなたは茶色い瞳を細めてから、私の頭をそっと優しく撫でた。
それから、切なくなる程優しい声で「ありがとう」なんて呟くから、
なんだか、今までひとりで抱えてきたこと全てを彼が分かってくれたように思えて、
我慢していた涙がとめどなく溢れてしまった。
冷たかった手が、彼の手の中でだんだんと温まっていくのを感じて、
今この手のひらの中に確かな幸せがあると、体温から感じ取ることができた。
end


