それは、一度終わった恋[完]

「稔海さんが漫画読む以外で泣いてるの、初めて見ました」

「こういうギャップがある方がキャラ立ちするだろ」

「ふふ、完全に編集脳ですね」

笑って彼の涙を指で拭うと、額にキスをされた。なんだかキスをされると、幸せで、くすぐったくて、笑ってしまう。

落ち葉が風に吹かれて、足元を通り過ぎた。

「寒いな、家帰ろう」

「そうですね……そういや寒いです」

「いっそ俺の部屋で描いてればいいのに。そうしたら、いつでもスパルタ教育してやるよ」

「か、考えておきます……」

青い顔で返事をしたら、デコピンをされた。

「でも、澄美の部屋の方が、澄美の匂いがして落ち着く」

「えっ、稔海さんの匂いの方が落ち着きます!」

「30目前のおっさんの匂いが落ち着くってお前どういうことだ」

「なんか稔海さんって秋の匂いがしません?」

そう言うと、稔海さんは歩きながら自分のコートの匂いを嗅いだ。

「え、なに、焼き芋くさいってこと? 焦げ臭いってこと?」

「違いますよ、なんていうか……」

私も彼の胸元に顔を寄せて匂いを確かめた。
なんていうか、表現しにくいけど、すごく落ち着くんだよなあ……。
胸元から顔を上げて彼を見上げると、ばちっと目があって、そしたらついでになんかキスをしたくなったので、自らキスをした。

「やめろ、日々仕事に追われるだけでときめき耐性無いんだこっちは」

「はは、なんですかそれ」

「部屋戻ったら覚悟してろよ」

「そ、それは仕事と恋愛、どっちの意味で捉えたら……」

「どっちもだ」

きっぱりとそう言い切るスパルタな彼に、私は青い顔で絶句していた。
しかし、そんな私の手を、厳しい言葉とは裏腹に彼は優しく握った。

……部屋に入ったら、久々にあなたと一緒に漫画が読みたい。
この作品はここが熱いとか、ここが実は名シーンだとか、バトルシーンにスピード感があるとか、そういう話がしたい。
あなたと過ごす日常が、私にとって1番の幸せだから。

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