小さな天使がくれたもの
さよなら


………痛い。


お腹がものすごく痛い。

とりあえずトイレ行こう

ズキッ


なに、この痛み。
今まで感じたことのないくらい痛い。

今何時だろう…

「AM.4:21」

朝の4時か…


ズキッ

待って!もしかして…


昨日先生がお腹に激痛が来たら病院行けって言ってたっけ…


どうしよう、なんだか悪い予感がしてきた

冷や汗が止まらない。


とにかく、ママに病院に連れて行ってもらおう。

私「ママ…はぁ、はぁ、助けて…
ものすごくお腹が痛いの。」


マ「え?もしかして…
ゆき!大丈夫?しっかりしなさい。


赤ちゃんは今、ゆきのお腹の中で必死に生きようとしてんだからゆきが頑張らないと赤ちゃんも頑張れないよ?」


私「うん、わかった!

…はやく、病院行こ…」


私はママの車で家から1番近い大きな病院へ向かった


かなり痛い…

ちょっとケータイで調べてみようかな


「子宮外妊娠 激痛」 検索


………


子宮の外で妊娠すること

お腹の痛みは卵管などで赤ちゃんが育ち耐えきれなくなった卵管が破裂したときの痛み

出血がひどい場合はショック死に至ることもある


また、子宮外妊娠は出産できる可能性が低い

子宮外妊娠になる確率は全体妊娠の約2〜1%

………


え?卵管が破裂?

出産ができないかも?

子宮外妊娠になる確率は約2〜1%?


私は頭が混乱していた

次から次に脳に入ってくる情報は私の知らない情報ばかり、それに私は今かなり危険な状態にいることがわかる。


とにかく、病院に着くまでそうと決まったわけじゃないからわかんないよね


そう、自分に言い聞かせた


マ「ゆき、着いたよ!ゆっくり降りなさい」


ママの手を借りて時間外の出入り口まできた


ママの手、震えてる…


ママも怖いのかな?焦ってるのかな?


いつものママはどこ?ってくらいママは焦ってる。


ママ、心配かけてごめんね?


マ「あの、すいません!

うちの娘がお腹が痛いって言ってるんです、昨日産婦人科で診断してもらったら子宮外妊娠の可能性があるって言われたらしくて、、紹介状ももらってます!うちの娘を助けてください。」


ママがたまたま通りかかった看護婦さんにそう告げた


看「あ、ちょうど今日のお泊り担当のお医者さんが産婦人科担当の方なんで頼んでみます!」


マ「ありがとうございます!」


それからまた看護婦さんが戻ってきて診察室まで案内してくれた


医「ちょっと、ごめんね?触るね」


内視鏡…。

ものすごく怖い。この診断で私の状態が分かるからってのもあるんだけど

お医者さん、男の人だし触られるの少し抵抗がある…


でも、そんなこと言ってる場合じゃないもんね


ようやく診察は終わりママと2人お医者さんに呼ばれた


医「お母さん、山口さん、よく聞いて下さい。子宮外妊娠です。」



……え?今、なんて?



子宮外妊娠、子宮外妊娠、子宮外妊娠…



私の頭の中でその言葉が響く



嘘だ、そんなの嘘だ!って叫びたいけど意外にも私は落ち着いていた。


いや、落ち着いていたんじゃない。


頭の中が真っ白でなにも考えられないだけだ。


言葉がでない代わりに涙がドッと溢れてきた


マ「あんたが、泣いたらママも泣けてくるでしょ。」


そういったママを見ると私と同じくらい泣いていた


マ「あの、産むことはできますか?」


医「残念ですが、それは不可能です。

今、赤ちゃんは卵管という卵巣と子宮を繋ぐ管に着床していて、卵管が少し破れて出血しています。」


マ「娘は…娘はこの子のために今必死に母親になろうとしてるんです。強くなろうとしてるんです。娘からこの子を取らないでください。


どうにか赤ちゃんを子宮に移動させれないんですか?」


医「それは不可能ですね…

卵管ごと赤ちゃんを一緒に切除しなければ後々、苦しむのは山口さんです。」


マ「そんな…」


医「とにかく、一刻も早く卵管を取り除かないと山口さんの命が危険です。

今から入院していただいて、今日のお昼前に手術です。」


お医者さんとママの会話は全く聞こえない


どうして私が…


どうしてこの子が…


なんで?なんで!?


私もこの子もなにも悪い事してないじゃない

ただ、私は産まれてきて欲しかったの

この手で抱きしめてママを選んでくれてありがとう、産まれてきてくれてありがとうって大事に大事に育てたかったの


なのに、どうして…


とりあえず、だいきくんに言わなきゃだ


プルルルル♪


だ「もしもし?朝早くに電話なんて珍しいね?」


私「ごめんね…ごめんね?」


だ「え?急にどうした?」


私「赤ちゃん産んであげれない。


子宮外妊娠だったの。今から入院して今手術だって。」


だ「え?嘘だろ…」


私「嘘じゃないよ…嘘だったらどんなにいいか。」


だ「俺、今日に限って大事な仕事だから休めねぇよ。ちくしょう。なんでだよ。なんで俺はこんなにも頼りねぇんだよ。傍に居てやりてぇのに。」


私「無理しなくていいよ?

お仕事頑張って!そしたら私も手術頑張るから!」


だ「ゆきこそ無理すんなよ?


今日仕事終わったら病院行くから、待ってろ。社長に訳話して明日は仕事休みにしてもらうから。」


私「ありがと、じゃぁ、また連絡するね」


だ「……おう」



だいきくん、泣いてた。


初めて泣いた声聞いた。

やっぱり辛いよね。苦しいよね。


私、大事な人、守ってやる事ができない

むしろ、泣かせてる。苦しませてる。


だいきくんも赤ちゃんもママも…


私、ダメな子だ…


あれから私はずっと泣きっぱなし


それでも看護婦さんやお医者さんは私に手術の説明や点滴など色々してくる


私はうんともすんとも言わないからなんだか自分が人形になった気分


気づけば10時


お腹が音を鳴らせた

でも、全然お腹なんか空いてない

喉も乾かない

トイレも行きたくない

私は本当にお人形さんみたい


ただ、天井を見上げ泣き続けるだけ

髪や枕はもうびっしょりになっているけど気にしない

看「今から手術です、オペ室へ行きますね」


あぁ、とうとう赤ちゃんとさよならだ


そう思うと涙がもっと流れてきた


私は人の目も気にせず、声にならない声をあげて泣いた


お腹を撫でてごめんね…ごめんね…

ただ謝ることしかできなくて…

本当にごめんなさい。


ママはあなたに会いたかった

抱きしめてあげたかった

一緒に大きく成長したかった

産んであげれなくて…
守ってあげれなくて…


ごめんなさい。


いざ、手術台に乗ると緊張や恐怖、不安で手が震えてきた。


助手「よく聞く歌手って誰?」


と微笑みながら聞いてきた

なぜこのタイミングでその質問?


と思いつつも


「西野カナとか、ですかね…」


助手「わかった!」


〜♪〜♪〜♪〜♪


「ねぇ、ダーリン♪ねぇ、ダーリン♪またテレビつけたままで、すやすやどんな夢見てるの?〜♪〜♪」


え?手術室って音楽流れるの?


それに西野カナって


あぁ、助手さんが私に気を使ってくれたんだ

その助手さんはこっちを見て、


助手「大丈夫、赤ちゃんは少しの間だったけどあなたといれて幸せだったと思うわ。」


そう笑った助手さんはすごく可愛かった


そのおかげか少し安心した


医「麻酔を打ったら、僕と一緒に10秒数えてください。麻酔が効き始めたら全身が痺れてくる感じになるけど大丈夫ですからね


じゃぁ、打ちますよ」


私・医「1..2..3..4.....」


だんだん意識が朦朧としてきた…


?「ママ?大好きだよ… 幸せだった。
ママとパパはずっとママとパパだよ」


え?今の声赤ちゃんかな?

女の子か男の子かわからないけどすごく可愛い声だった


私なんてバカなんだろう


どうしてごめんねしか言えなかったんだろう

もっと他に大事な事があるのに

言わなきゃいけない事あるのに


「赤ちゃん?ママとパパのところにきてくれてありがとう。ママね?ずっとどうして産んであげれないんだろう。なんで抱っこしてあげれないんだろう。私のせいで赤ちゃんの事苦しめた。って思ってた。


でも、私は赤ちゃんの事大好きなの。

それと同じで赤ちゃんも私の事大好きって思ってくれてたんだね?


さよならするのすごく悲しい。

でも、さよならじゃないよ?

またママとパパを選んでくれるかな?

またママとパパのところに戻ってきてくれるかな?


赤ちゃん、きっと忘れ物しちゃったんだよね?だからそれを取りに帰らなきゃいけないんだよね?

だったら、ママずっと待ってるよ


赤ちゃんの事、パパと待ってる

そしたら、さよなら。じゃなくて、またね。でしょ?

それに、あなたのママとパパはずっと変わらないよ?私とだいきくんしかいないよ?」


「ママとパパを選んで良かった!


また戻ってくるから、絶対。


またね!」


そこで私の意識は途絶えた。
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