Fun days

写真集

平日のコメダ珈琲は空いていて
広い4人席に座ることができた。

席に着いて、オーダーを終えるとすぐに

「猫の本、見よ」

と言って、隣に座ってくる村田。

本屋でもそうだったけど、
何だか今日は、いつも以上に近づいてくるなあ…
戸惑いつつも、美桜は本を取り出しページをめくる。

…やっぱりいいなあ。
顔がほころんでしまう。
ふふふ。
…やばい、にやけちゃう、
と顔を覆うと、村田と目が合う。

「この猫、かわいいね。美桜みたい」

優しく笑って、村田が言う。

その言葉が素直に嬉しい美桜。
村田はたまにさりげなく
すごくうれしいことを言うから困る。

「…うん。自然に撮れてていいよね」

照れ隠しで、写真についての話に変えてしまう。

ふと、村田が美桜の顔を見つめて言う。

「美桜、まつげついてる」

「どこ?」

「…ここ」

と言って、村田が美桜の頬についたまつげを取る。

時間がゆっくり流れたような気がした。

何だかどきどきする。

「…とれた」

「ありがとう」

微笑みあう二人。

何だか目を合わせていられず、本に目を落とす。


この美桜に似ている猫の写真を
もっとゆっくり見たいと思った村田は

「今度この本貸して」

美桜に言う。

「うん、いい…あ、あー…
 違うの貸すよ。もっといいのあるから」

美桜が答える。

「え、これはだめなの?
 急がなくていいからさ」

この猫が見たいのに。

「えっと、これはちょっと…
 他の人に貸したくて…」

えー…、なんで?
さっきは俺に貸してくれるって言ってたのに…

村田の怪訝な顔が悲しそうな顔に
なっていくのに気づいて

「…ごめんね。幼馴染が明日久しぶりに
 帰ってくるんだけど、
 このカメラマンの写真が好きなんだよね。
 次いつ来るかわからないからさ・・・」

美桜が申し訳なさそうに言う。

そっか、幼馴染かあ…
きっと大切な友達なんだろうな。
仕方ないか…

…ん?
もしかして…

悲しさが嫌な予感に変わっていく。

「…その幼馴染って男?」

「うん。そう」

やっぱり…
俺より大切な、男の幼馴染。

唇を尖らせて、あからさまに拗ねる村田。

「明日もっと気に入っている写真集を
 持ってくるから。…ね、これ食べよ?」

頼んだまま放置されていたスイーツを
フォークでつつき始める美桜。

…もうこの話題やめてってことかなあ。

美味しそうに食べる美桜を
横目で見ながら、ためいきをつく村田だった。
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