Fun days

幼馴染

講義を待つ教室の中、
村田は浮かない顔で、空を見つめている。

昨日は、美桜に腕に落書きをされて
ご機嫌だったのに、
と思いながら、大崎が声をかける。

「おはよう、村田。
 元気ないじゃん。何かあった?」

「…美桜、男の幼馴染がいるんだ」

「ふーん。それで?」

鞄からノートを出しながら、大崎が聞く。

「猫の本は、その幼馴染に貸すから
 俺には貸せないんだって。
 ・・・きっと、そいつのこと好きなんだ」

死んだような目で言う村田。

こういう言い方をするっていうことは
美桜に聞いたわけじゃないんだろう。
勝手に想像して、勝手に落ち込んでいるわけだ。

「美桜に聞いてみないとわからないじゃん。
 ”好きな人”じゃなくて
 ”幼馴染”って言ってるんだから」

「でも、最初は貸してくれるって言ってたんだよ。
 俺よりそいつのこと優先して…
 あんなにいい感じだったのに」

遠い目をして言う村田。

昨日せっかく美桜といい感じになったのに、
わざわざ”幼馴染”を気にして、落ち込んでるんだ。
呆れて大崎は言う。

「恋すると大変だね。やめちゃえば?」

「そんなに簡単に言うなよ。
 やめられるわけないじゃん」

村田がむっとして言う。
やめたくないし。
もう美桜しか考えられないし。

「もうやめられないくらい、美桜が好きなんだ。
 何でそんなに好きになったんだろうねえ」

大崎は興味本位で聞いてみた。

「…最初はかわいいなあって
 それだけだったんだけど…
 最近、美桜といると落ち着くんだ。」

…うん。
本当にそうだ。

美桜と一緒にいると、
ほわっとした気持ちになって…
幸せってこんな感じかなあって思うんだ。

「なんか、癒されるっていうか…」

ほっとするっていうか…
美桜がいるような気持ちになって
心が暖かくなってきた村田。
…美桜に会いたくなってきた。

村田の気持ちが、何となく大崎にも伝わる。

「そっか。昨日いい感じになって、良かったじゃん」

「うん。二人で並んで、本を見たんだ。
 可愛い猫の写真の本…
 今度貸してくれるって言ったのに…」

また顔が暗くなってきた村田。

あまりの表情の変わりように、吹き出しそうになる大崎。

「恋人よりも、友達を優先することって
 あるじゃん。余裕もちなよ」

「…恋人じゃないし」

嬉しかったようで、笑いながら答える村田。

現金なやつだなあ、と大崎も笑った。
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