Fun days

携帯

美桜はあっちに行ったり
こっちに行ったりして、写真を撮っている。
村田は近くにあったブロックに座って
それをぼーっと見ていた。

…なんか幸せ。
ずっとこうして美桜を見ていたい。
この瞬間をしまっておきたい。
心に焼き付けておこうと、じっと見ていると
眠くなって目が閉じそうになる。
うわ、もったいない、と思って
頭を振り、目を見開く。

あ、俺も撮ろう、と思いつき、
村田は携帯電話を取り出した。

”ピピピ カシャ”

携帯のカメラのシャッター音は意外と大きい。
自分以外のシャッター音に気付いて
美桜は振り向いた。
村田の携帯電話のカメラが自分を向いている。

カメラ越しに美桜と目が合って
村田は携帯から顔を出す。

「あ、ごめん。写真を撮ってる美桜、
 かっこいいなと思って…」

何も言われていないのに、弁解じみてしまう。

「別にいいけど、
 変な写真撮らないでね。」

ちょっと冷たく美桜は言った。

「でも、いい写真が撮れたら
 私にもちょうだい」

今度は笑って言った。

そして美桜はカメラを構えて、
また写真を撮りはじめる。

怒られなかったことにほっとした村田は
再び美桜の姿を携帯越しに追う。

美桜にも見せられる、いい写真を撮りたい。

ああ、でもカメラで顔が隠れて、見えないなあ…

美桜がカメラをおろして、キョロキョロしている。
さっきよりも顔が見えるようになった。

美桜、こっち向かないかな…

あ、こっち向いた。

”カシャ”

撮れた写真を見ると、何だか美桜が遠い。

もっと近くで撮りたいなあ。

…あ、こっちに歩いてくる。

”カシャ”

…もっと笑顔が撮りたいなあ。

もう一度携帯を美桜に向けると
顔が近くなって、笑ってる。

”カシャ”

なかなかいい写真が撮れたかも。

すると、携帯に写る美桜が

「…村田、撮りすぎ。部室棟戻るよ」

笑いながら言った。

村田が携帯から目を外すと、
美桜があまりにも近くにいたので
びっくりしてしまう。

そんな村田を見て、美桜が大笑いする。

あ、この顔を撮りたい。

村田は思ったが
さすがに撮ることはできなかった。
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