Fun days

部室棟の広場に戻って
美桜はまた写真を撮りはじめる。

鈴ちゃんが指差した写真研究会のあたり。
部室棟の上に広がる空。
広場を行ったり来たりしながら
何枚も写真を撮る美桜。

それをベンチに座って見ていた村田。
携帯電話を取り出そうとすると
足元に猫が座っていた。
猫は村田の足に、ぴったりと寄り添っている。

村田の家では動物を飼ったことがない。
犬を飼いたいと
村田が家族に言ったことがある。
動物が動物を飼うなんて無理だと言われた、
苦い思い出だ。

そんなことを思い出しながら、猫を見る。
…どうしたらいいのか、わからない。

戸惑う村田に構わず、猫はすり寄ってくる。
やっぱり、どうしたらいいのかわからず、
村田は猫を見つめて固まっていた。

「村田…あ、猫だ~」

美桜が猫に気づいた。

「かわいい~」

村田の足元にしゃがんで、猫を見る美桜。

「村田の足が気に入ったみたいだね」

無邪気に笑って、村田を見上げる。

「うん。何で気に入られたんだろう」

猫が寄り添っている右足に
違和感を感じながら、村田は言った。

「あ…そのままでいて」

つぶやいてカメラを構える美桜。

”カシャ”

無事に猫が撮れたようで
満足そうに笑って、また村田を見上げる。

空を覆っていた雲は
いつのまにか薄くなっていて
太陽の光が差し込んでいた。
うっすらと輝く、美桜の髪とまつげ。

…この美桜を撮りたい。
でも撮れないから、心の中にとっておこう。
心の奥底に焼き付けようと
美桜が猫を見つめているのを、じっと見る。

「あ、村田のこと仲間だと思ってるのかな。
 金髪だから」

猫を撫でていた美桜は、そう言って笑った。

「そうなのかな」

…それなら、俺のことも撫でてよ。
今、撫でているみたいに優しく。
そう思ったら、
美桜に撫でられているのは猫ではなく
自分のような気がして、体が熱くなってきた。

見ていられなくなり、美桜から目をそらす村田。

そんなことをしていると
猫はプイッと立ち上がって、行ってしまった。
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