Fun days

一途

「これは…なかなかのカメラだよ…」

吉岡が、健吾から借りたカメラを眺めて言う。

「よかったら貸しますよ。
 デジタルなんで、ガンガン撮ってください」

「おう…いや、だめだ。浮気はできない」

「へえ、吉岡さんて一途なんですね」

「うん。惚れた女につくすタイプ」

しかし、健吾のカメラは離さない。

すると、美桜の電話が鳴った。
村田からだ。

「もしもし」

『美桜?あさって、試合に来るって本当?』

「うん、そうだよ。村田も出るの?」

『出られるかはわからないけど、
 俺も行くんだ』

「じゃ、場所とか教えて。
 カメラに興奮して詳しいことを
 聞くの忘れちゃった」

『もう家に帰ってるの?』

「ううん。写真研究会にいるよ」

『じゃ、あとでいく』

「うん、まだ当分いるから」

電話を切って、健吾のカメラを
まだ覗いている吉岡に、美桜は言った。
 
「もう観念して、何か撮ってきてください。
 それで、コツとかあったら教えてください」

「…しょうがないなあ。
 じゃあ試し撮りしてくるか」

吉岡は立ち上がって外に出て行く。
笑って見送る美桜。

試合かあ。
三脚使ってみようかな。
でも大げさかなあ…
あと、カメラのデータの操作も
練習しておかないと。
せっかく撮ったのを間違って
消しちゃったら泣くもんね。

一応フィルムカメラも持っていこうかな。
望遠レンズだと、近くにいる人を
撮りづらいから、二台あると便利かも。
カラーのフィルム入れて、スナップ写真用にしよう。
大荷物になりそうだから、会場が近いといいな。
ふふふ。楽しみ…

ニヤニヤしながら考えていると、
ドアをノックして、村田が入ってきた。

「あれ、吉岡さんは?」

「健吾のカメラで試し撮りしてる」

「そっか。大活躍だね、健吾」

「ね。すごくいい奴かもって思ってきた」

「…そう、だよね…」

美桜、モノでつられてる?
少し不安になる村田。

「で、試合はどこでやるの?」

「あ、うん、ここの体育館だって」

「そうなんだ。じゃあ三脚持って行こう。
 杏子ちゃんも来るかな?」

「うん。来るよ」

「よかった。またおしゃべりしようっと」

杏子と美桜が、仲良くなってくれて良かった。
美桜がバスケの写真を撮るのに飽きても
杏子が誘えば、遊びに来てくれるかもしれない。
何しろ明日から夏休みなんだから、
会える機会を増やしておかないと…

そして、この話もちゃんと決めたい。

「あのさ、美桜、花火を見に行く話なんだけど…」

村田がリュックから
花火大会特集の雑誌を取り出そうとすると

「いやあ、良いカメラだよ~」

調子よく言いながら、
吉岡が部室に飛び込んできた。
早速、吉岡はパソコンにカメラをつないで
撮った写真を見はじめる。

美桜も吉岡の後ろから、パソコンを見る。

「吉岡さん、浮気はだめですよ~」

美桜がにやにやと言う。

花火の話、したかったのに…
むくれながら、
俺は絶対に浮気しないと誓う村田だった。
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