Fun days

本屋

美桜は本屋が大好きだった。

静かな場所に、膨大な量の本が並んでいる。
本を読むことが好きな美桜にとって
本屋は夢のような場所だ。

本の中には、その一冊一冊に
それぞれの世界が詰まっている。
でも開けて見ないと
どんな世界が入っているのかは、わからない。

本を開いた瞬間、心の白い部分と
その世界が交わりあう。
この瞬間を美桜は愛していた。

でも大学に入ってからは、少し嫌いになってきた。

大崎に勧められて選択した谷中先生の授業では、
一週間に一冊は当たり前で、先週なんか
三冊も読まなくてはならなかった。
それに、ゼミでも毎週一冊本を読まないといけない。

おもしろい本にあたればいいけど、
好みに合わないと最悪だ。
ノルマで読む作業はかなり苦痛なのだ。

読むのも大変だが、買うのも大変なので
美桜は古本屋にくわしくなった。
古本屋は独特のにおいがする。
田舎のおばあちゃんちのような、なつかしいにおい。

それにいちいちときめいていたが、
最近は憂鬱なにおいになってきた。
古本屋に欲しい本が必ずあるとは限らないので、
何件もまわって、欲しい本を探すことになるからだ。

(ああ、ここにもないか…次の店に行こう)

そう思って村田を探す。
それが段々面倒になってきて、
連れてきたことを後悔する。

大体まんがコーナーで立ち読みしているが、
くすくす笑っていたりするのが、またムカつく。
こっちは必死で本を探しているのに。

置いていこうかな、と魔が差しつつも
さすがにそれは酷いと思い

「村田ー、次行くよー」

と声をかける。

村田はサッと本をしまい、すぐに美桜の隣に来る。
やっぱり犬っぽい。

「なかなか無いねえ…あと1冊だっけ?」

一緒にいられるのがうれしくて
へらへら笑って話す村田。

それにむっとする余裕も無く

「もう諦めて新刊買おうかな~」

疲れた美桜は言う。

「でも行ってない店あるでしょ。
 行こうよ。一緒に探すから」

まだ美桜と一緒にいたいし。

村田の提案に気乗りしない美桜。

村田に探している本を教えても、覚えずに
何度も聞きに来るから邪魔なだけなのだ。
さすがに、はっきりとそう言うのは気が引ける…

黙っていると

「…美桜、ちょっと休憩しよ。おごるから」

と村田はマックを指差す。

そういえば、新発売のフルーリーがあったなあ。

「…うん」

美桜は村田の提案にのった。

美桜は新発売の抹茶オレオフルーリーを
嬉しそうに食べている。
疲れて不機嫌だった美桜を
笑顔にできて村田は満足だった。

「美桜は本当に甘いものが好きだね。」

「うん。大好き」

真正面からの”大好き”という言葉に
勝手にときめく村田。
思わず美桜から目をそらす。

そうだ、次に本屋に行く時も、こうして二人で
休憩できるように、他の店もリサーチしておこう。
いつもマックじゃ美桜は満足しないだろうから。

しかし、おごりばっかりでキツイなあ。
深夜のコンビニバイト、やめられそうにないな…

ふと、思い付く。

「美桜、コンビニの賞味期限切れの
 スイーツ食べる?そういうの嫌い?」

「食べる!」

大きな目で即答する美桜。
よっぽど甘いものが好きなんだなあ。

「じゃ今度バイト先でもらってくる」

「うん。楽しみにしてる」

めずらしく顔を見合わせて、微笑みあう二人だった。
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