恋の治療は腕の中で
「紗和!」
声のする方に目線を移そうとしたら、いきなり腕を捕まれて声のする方へ引っ張られた。そしてそのまま抱き締められた。
なに?何が起きたの?
顔を上げると悠文が私を抱き締めていた。
「なに、俺以外の男に抱かれてるんだよ。」
「悠文!?なんでここに?」
そんな私の言葉を無視して
「この店は、酔った女性客を介抱するふりしてそんなことするのか?」
そんなこと?…………
あっ!
「違うの悠文。私が酔って立とうとしたら足がもつれて倒れそうになったところを陵介さんが助けてくれたの。」
「ふーん。」
ふーん。って、私のことより自分はどうなのよ。フィアンセがいながら私にあんなことしたくせに。
私は悠文から放れようとした。でも悠文はそれをさせてくれるどころかますます力を込めてきた。
陵介さんは、悠文が私の知り合いだということが分かったのか笑顔で
「すみません。誤解を招くようなことをして。紗和さん、もう大丈夫そうですね。」
そう言って笑顔で会釈してからお店に入っていった。
「紗和、帰るぞ!」
悠文は、私の手をとって向きをかえ歩きだした。
ちょっと待って!何処に帰れって言うのよ。私の帰る場所なんてないじゃない。
「放して!」
私は立ち止まると手を振り払って悠文を睨み付けた。
「何処に帰るっていうの?私にはもう帰る場所なんてないから。」
「あー、やっぱり麗香のこと気にしてんだな。」
何よ、さすがフィアンセよね。呼び捨てしちゃって。
病院でだって何も言ってくれなかったじゃない。
私は下を向いた。すると乾いたアスファルトに悲しい雨が落ちていく。
こんな所で泣きたくない。なのに涙は次から次と溢れてくる。
「紗和…………」
「ごめん。心配かけて。」
今度は優しく抱き締めてくれた。
そんなに優しくしないで、じゃないとまた一人になるのが辛くなるから。
私は声を殺して泣いた。
「ほらっ、紗和。俺の前で我慢するな。
って言っても俺のせいだよな。」
そう言いながら悠文は私の背中を優しく撫でてくれた。