あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
「ご苦労だったな」
「カカオ」
あたしが大丈夫だから、って言って手出しをしないようにお願いしたけれど、本当に何もしないで見守ってくれた。
あたしのこと、信じてくれた。
「ありがとね」
「礼を言うのはこちらだ」
そう言ったカカオはふと、右手を宙に浮かせた。
しばらくの間、その無骨ながら綺麗な手は迷ったように宙を彷徨ったかと思うと、そっとあたしの頭に降ろされる。
「よくやった。 ……強くなったな」
二、三度、パタパタを頭を叩かれ、その手は頭から離れていく。
突然のことに事態を飲み込むのに少し時間がかかった。
「ちょっとー、こんなところでいちゃいちゃするのはやめてくださーい」
突然背後から肩に重圧がかかり、シュガーが後ろからもたれかかって来たのがわかった。
腕があたしの両肩から生えていて、ぷらぷらと揺れている。
「いっ、いちゃいちゃ⁉︎」
「忘れてない? 俺たちがいるってのと、これから戦いが始まるってこと」
シュガーが唇を尖らせて不満を漏らすけれど、カカオは表情を変えなかった。
「別に、そういうつもりはなかった。 ただ、純粋に感心しただけだ」
そう素直に返答したかと思うと、己の剣の柄に手をあてがった。
そして、その強い眼差しで、扉が開け放たれている城の中を見つめた。
「行くぞ」
カカオの声を合図に、あたしたちはオスガリアの宮殿に侵入した。
静かな宮殿の中に、あたしたちの足音だけが響く。
今は、だだっ広い廊下にいる。
大理石で出来ているそれは、あたしたちの靴音だけを反響させるので、逆に不気味だ。
「静かだね」
「静かすぎるほどにな」
壁に造り付けられている燭台には、火は灯っておらず、代わりに魔力で明かりを作りだし、仲間の足もとを照らしていた。
「どこに行くの?」
「王座の間だ」
「え」
「シッ」
何か言いかけたけれど、それはボルトの緊張感溢れる声によって遮られる。
「隠れていてください」
そういったボルトは、物陰に姿を隠し、サッとどこかへと駆けていく。
さすがは、駿馬のボルト。
人姿になっても脚は変わらず速いらしい。
一瞬で姿が廊下の奥へと消えた。
誰かいたのかな。
カカオとシュガーの顔を見渡すけど、彼らは顔を横に振るばかりだ。
しばらくすると、ボルトが帰ってきた。
わずかに、その額に汗が浮いている。
「そこに、兵士が武器をもって構えていた」
「っっ!」
「巡回兵か」
「軽く数十人はいた。 しかも、廊下を塞ぐように……。ここの廊下はどうやら一周出来るような構造になっているらしい。様子を見ていると、同じ兵が右の廊下を行き、左奥から帰って来た。 五人ずつ隊を組み、巡回している。 それぞれ動きが決められ、兵士たちは延々とそれを繰り返しているみたいだ。 このまま進むと、確実に挟まれる」
「じゃあ、どうすれば……」
みんなが黙り込み、辺りを再び静寂が支配した。