ハコイリムスメ。

プシュー…

電車がため息をついて停車し、何人かの客を吐きでして、代わりに新しい乗客を飲み込んだ。

みんな一様にだるそうな顔をしている。
まあ、1人くらいはバカ正直に「夏って最高!」というアホ面してるやつもいるんだけど。

ああ、頼むから暑い空気は一緒に飲まないでくれ。
冷たい空気を吐き出すのはやめてくれ。




ああ、なんて馬鹿げた考え…
暑さでねじが緩んでるかも、俺の頭…

 
「あれ、ちとせさんじゃないスか!!」

急に誰かに声をかけられた。

「…よぉー」

声のする方を振り向くと、1組のカップル。

「へへ、こんちは」

まあつまり、電車に知り合いが飲み込まれてた。




人懐っこい笑みを浮かべて俺の側に来るコイツは親友、サトの弟、峰島トオル。
生意気に、可愛い女の子を連れていた。
女の子は、俺に小さく頭を下げた。


「あれッ?知らない人だー。美佐さんにチクっちゃお」
「トオルくん………?」

若干殺気を込めて言うと、あわてて否定を始める。

「うわっ、嘘です嘘!!」
「よろしい。ってかお前学校は?」
「ああ、今日午前中だけだったんですよ」
「はあ?なんで」

いいなあ、中学生は。


「俺ら来年ってか冬?受験ですからねー。なんか、模試みたいの受けて。それで今日は解散ーってなったんすよ」

…大変だなあ、受験生は。

「で?彼女とデートかよ。うらやましーねー」
「ちとせさんだって!」
「俺は違うの」
「へえ?胡散臭…なんでもないっす!」


本日2人目の正直者発見。


「彼女困ってるよ」

俺はどうでもいいけど、なんて思いながらトオルに言った。
葵も戸惑ってたし。

「ああ、ごめん、なゆ。えっと、この人はー」
「谷神ちとせさん、ですよね!」


なゆ、と呼ばれた女の子はトオルが説明し終わる前に半分叫ぶような勢いで言った。
目をキラキラさせて俺を見てる。


「うん?ん、そだけど」


そのオーラに気圧されながらも答えると、きゃあ!!と、歓声をあげる。

「やっぱり~!!」

何がそんなに嬉しいんですか…



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