【短】溺愛ショコラ
『茉子ちゃんがいない食卓なんて、寂しいわー。』
「何言ってるんですか、先生。」
寂しい、なんて言っておきながら、その表情は笑顔で、全然寂しそうではない。
いつもの先生ジョークだと思った私は、パンプスに足を滑らせる。
『もしかして、今日は彼とデートかしら?』
「っ…な、何言ってるんです。違いますよー!」
『あらあら、隠さなくてもいいのに。』
違うと言っているのに、それがウソだとバレている。
確か、彼氏がいるのかと聞かれた時も、いないと言ったらウソだとすぐにバレたっけ。
先生の言う通り、今日は付き合って1年になる彼とのデートだ。
彼のために今日はできる限りのおしゃれをしている。
きっと、先生の原稿が遅れて、家に帰って準備する時間はないだろうと踏んでいたから。
「じゃ、じゃあ、今日はこれで失礼します。お疲れさまでした!」
『はい、お疲れ様ー♪』
ヒラヒラと手を振って見送ってくれる先生に一礼して、私は外に出た。
よし、早く会社に行こう!と気合を入れて、またパンプスの音を廊下に響かせるのだった。