清掃員と経営者

瞬く間にその時の状況は噂になり、皆瑠美を見かけるたびに「あの子が…?」「泣かせるなんて酷い」とヒソヒソ陰口を言われる様になった。


「村上さん。小会議室に10時ね。」


上司に声を掛けられ、少ない仕事を片付けて会議室へ向かった。


「契約更新の時期なんだけど、色々噂を耳にしてね。君の意思を尊重しようとは思うんだが…。」


噂は上司の耳にも届いていた。
膝の上に置いていた手をギュッと握り、顔を伏せてしまった。


「仕事に私情が影響するのは我々も見過ごせない。噂を鵜呑みにするつもりはないが、君も辛いだろう。」


まるで遠回しに「辞めろ」と言われているようで瑠美には選択肢が無くなっていた。


「ご迷惑をお掛けしました。更新はしなくていいです。お世話になりました。」


色々考えるのが面倒臭くなり、頭の中を整理する間も無く辞める決断をしていた。
翌日には退職手続きに必要な書類を何枚か渡されて「20日までに提出を」と事務的な言い方をされた。

その翌週からだろうか、皮肉な事に女性社員の態度は普通に戻り引継ぎは滞りなく退職準備は整った。

だがその間も坂本からは連絡がなく、結局は瑠美が悪者のまま去るしかないと思わざるを得なかった。
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