清掃員と経営者

瑠美の声を聞いて少し男性の声が和らいだ。


『昨夜はゆっくりできましたか?まさか本当に連絡を頂けるとは…。話は早い方が良い、来週の月曜からの出勤でどうでしょう?』


矢継ぎ早に伝えられ焦りながらも、男性の指示をメモする。
いきなりの採用に動揺しつつ、このご時世すぐに仕事が見つかるのは有難い。詳しい話は出勤初日にと渡瀬に言われ、簡潔に電話は切れた。


「なんか…。慌ただしかったな。でもラッキー!」


心機一転、机に向かい職務経歴書を書き始めた。
仕事が決まったとは言え考えてみたら“渡瀬”の顔を憶えていない。昨夜のスーツの男性、彼が“渡瀬”なのだろうかと考えながら自分の醜態を晒してしまった事を後悔する。
そしてホテルの手配も彼が手配してくれたのだろうか?もしそうであれば何故そこまでしてくれるのか不安も感じる。

きっと全ては“渡瀬”に会えばハッキリするかもしれない。それでせっかくの就職先もダメになるかもしれないと慌ててピックアップした会社にも念の為連絡する事にした。

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